中学校の部

   たいせつなもの

	      大川村立大川中学校
            二年 木 竜 明日香 

  私には、大好きな絵本がある。長田弘さんの「森の絵本」という本だ。幼い頃は内容を深く考えていたわけではないが、何か引かれるものがあった。時間があれば飽きもせず何度も何度もページを開いた。たぶん言葉だけではなく、荒井良二さんの絵が言葉をより引き立たせ、「森」の世界に私たちを誘ってくれていた。
 山村留学生として、今、大川村に住んでいる私だが、私の家は東京にある。小さいころは、「自然」が大好きだった。家の周りには木もなく、コンクリートに囲まれていたからよけいに「自然」に憧れていたのかもしれない。そんな私が、「森の絵本」の中で最も好きな場面がある。
 ― きみにとって だいじなものは 何?
 「すきな人の 手を にぎると わかる」
その声は、いいました。「ほら、こんなにあたたかい。だいじなものは その あたたかさ」
 ― きみにとって たいせつなものは 何?
「すきな人の 目を 見れば わかる」その声は いいました。「ほら、その人の 目のなかに きみがいる」
これが最も好きな場面だ。だいじなものは何?たいせつなものは何?と聞かれたら、私は答えられるだろうか。だいじなものは……。やさしい緑の木々に囲まれ、魚ものんびり泳いでいる。静かな時間を絵でも表現している。ページを見ていると、穏やかな気持ちになる。
 本の中だけでなく私の目の前には緑が広がっている。大川の山々だ。教室からふと外を見れば山が見える。大きな山々が。たくさんの緑が。何か考えごとをするときに窓の外を眺める。緑が目に入る。なぜか心が落ち着く。考えがまとまり、いつもとは違った視点で物事を見ることができるような気がする。
 皆にとってだいじなものは何だろう?自分自身や命の次にだいじなものは?大切な人、家族が目にうかぶ。そのだいじな人たちと共に過ごす環境もだいじだと思う。自分自身や命の次にだいじ、たいせつなものは、自然の温かさだと思う。自然がない、森がない、木がない、星もない……。そんな世界に生きたいと思うだろうか。たとえ大切な人ができたとしても……。自然に触れると、自分の小ささを肌で感じるような気がする。穏やかで静かな世界だからこそきわだつ美しさがある。
 私たちが生きていくためには、絶対に自然とは、触れ合っていかなければならない。私たち一人一人が大切にしていかなければならない。あたりまえにあるものを意識して過ごすことで、今よりも、美しい世界になるはずだ。大切な人を愛するように、自然を愛すことができれば、私たちの存在に、生きるということに、輝きを増すことができると思う。
 私は、これからそのことを意識して自然と触れ合っていきたい。