中学校の部  

  吉野川
       
         高知市立鏡中学校
           二年 マヤ・エリザベス・カーン
 
 爪先が水に触れた瞬間体が硬直した。足裏に刺激がじわりと広がる。反射的に水から脱出。冷たい、なんて言葉ではすまなかった。
 川を見る。山の空気をたっぷり含んだ青緑色の液体が、重力に引っ張られて下流へと移動していく。泳ぎたい。だけど、無理。仕方なく小石を踏みながら退散する。
 ふと後ろを見ると、妹がガタガタ震えながらも腰まで水につかり、自分の腕に水をかけていた。なんで?呆然として眺めていると、妹はふっと水の中へ潜った。水しぶきが美しく跳ねる。「ギャー、冷たい!」水から頭を出した妹はそう叫びつつも、可愛らしい満面の笑顔を見せていた。
 妹への敗北感を噛みしめながら、私は手足を動かして血の巡りを良くし、再度試みる。ふくらはぎまではなんとか入ることができた。膝が川に触れたところで下半身が凍りついた。もはやそれは痛みだった。イタイイタイイタイ。同じ形容詞がひたすら頭の中をこだます中、頭を空っぽにする。手で水を掬って胸の上で落とす。背筋に鳥肌が立つ。息を吸い込んで紫のゴーグルをセットした。
 白い気泡が視界を覆った。激しい低温が全身を刺激する。水が皮膚、筋肉、骨、細胞の中に染み込む。自分が水中にいることを理解した私は、固まった腕でクロールした。さわさわを逃げていく魚達、川の奥に溜まっている茶色い葉、色とりどりの小石。去年と少しも変わらぬ光景に安心する。すると、さっきまでの臆病な気持ちが嘘のように消え、冷涼な心地良さのみが残った。
 背泳ぎしながらクールな空気を優雅に楽しむ。すっかり女王様気分だ。首筋をなぞって流れていく水の分子を感じていると、古い記憶が蘇ってきた。「水って不思議だよね」幼い私は、風呂の水で遊びながら妹にそう呟いた。お湯でロマンチックな気分になることができた私。妹には変な顔をされたが、今でも水という物質に不思議な感覚を覚えることがたまにある。
 岩によじ登り、ロープを手にする。水から上がって肌が空気と触れたからか、ストンと落ちたように体が冷めていく。ふと頭の中が真っ白になった。日々のストレスが山の水と一緒にきれいさっぱり流れていった。もやもやした汚れが消え、爽やかで涼しげな色に包まれるように。
 これだ。私が去年の夏、太陽の強い日差しに照らされながら感じたもの。山によって育まれた川。今年の夏も感じることができる。来年も、高校生になっても、大人になっても、きっと。川は遥か昔から、汚されたり浄化されたりして地球を巡回している。それはこれからもきっと変わらないだろう。そう願う。
 足裏で岩を蹴り、体がふわっと空中に浮かんだ。そのまま水の中へ落下する。